古本屋の研究日誌

古本屋として働きながら博士号を取得するまでの軌跡

独訳華厳経

f:id:furuhon-ya:20091002164022j:image:w150:right独訳華厳経といえば、土井虎賀寿(とらかず)。先日、こちらの彼の超人的活躍と言動あふれる伝記を入手する機会がありました。ニーチェヘーゲルのドイツ哲学が専門の学者ですが、かえって東洋の華厳哲学が彼に何がしかの“根拠”を与えるだろうという予感を持っていたようで、東大寺・上司海雲からその独訳を委嘱されたようです。仏陀跋陀羅による漢訳(旧訳六十巻本)からの独訳みたいですが、独訳ばかりか英訳・仏訳も予定していたと、この伝記は伝えております。


もともとは、ヘーゲルの弁証法的論理と華厳経の展開する法界の論理との間に相通じるものがあると見て、高山岩男たちと華厳経の輪読会を開催したのが、彼が華厳経に関心を持ったきっかけのようです。当初は、「入法界品」の漢訳を読んでいたようですが、京大・印哲出身の方を交え、彼から梵文の解説を聞くという感じだったようです。でも、ヘーゲルって、感覚的確信から絶対知へ至る過程を『精神現象学』の中でいってるようですが、それって何となく仏道修行の階梯と似てるようなところもありますよね(!?)。知にも、いろいろな段階でそのレベルに相応した正しさがあって、より高度な知が求められていくという点では…。


今まで数回その“Das Kegon Sūtra”を古書市場で見かけたことがありますが、取り扱ったことはまだありませんね。1,2回お客様に問い合わせをいただいたことを覚えてますが、探されてる方も割りに多いのかもしれません。古書としても結構なお値段です。あと、同じく彼が独文で書いてハイデッガーから称賛されたという『華厳経入門』“Das Kegon Sūtra―Eine Einfürung”というのは見たことありませんが、本当にあるんでしょうか?大判46ページのパフレット風小冊子だそうで。もっとすごいのは、彼がハイデッガーから称賛された手紙を古本屋に売り飛ばしてしまったということなんですけどねぇ…。