古本屋の研究日誌

古本屋として働きながら博士号を取得するまでの軌跡

仏教、本当の教え

こちらを購入し、読んでおります。梵漢和対照・現代語訳の法華経維摩経を出された植木氏による新作本。

仏教、本当の教え - インド、中国、日本の理解と誤解 (中公新書)

仏教、本当の教え - インド、中国、日本の理解と誤解 (中公新書)

梵語から漢語へ、そして漢語を読み下して和訳する中で、原意が誤解あるいは文化史的に変容されていく様子を具体例を挙げながら指摘しています。また、そうした仏典翻訳からインド・中国・日本三国の文化的違いが見えてくるようで、その辺は面白く読ませてもらいました。仏典翻訳こそ、比較文化に最適ではないか?というのは確かにそうだと思います。例えば、マーター・ピタラウ(母・父)という梵語は、漢訳では必ず父母と、順番が入れ替わってます。これなどは、男尊女卑による改変だということになるようで、仏典におけるジェンダーを専門に研究している氏には見逃しがたいところでしょう。


あとは、サッダルマ・プンダリーカというタイトル名についても。岩本裕訳によれば、「正しい教えの白蓮」ですが、著者によれば、それは文法的に間違いであり、正確には「白蓮華のように最も勝れた正しい教え」となるのですが、その根拠も示されてます。また、「正法華経」と「妙法蓮華経」の「正」と「妙」の違いについてもなるほどと思いました。


それにしても、本書に出てくる“祇園”の話は笑えました。祇園は「祇樹給狐独園精舎」の略で元は梵語ですが、日本では花街です。そこで払う“花代”というのも、元を糾せば、サンスクリットのPaNa(お金)なんだそうです。それを「花」という漢字に当てて花代としたようですが、よくよく考えてみれば、「今夜祇園に行ってくる!」というのも、「釈尊が滞在された(神聖な)場所へ行く」という意味なんですよねぇ…(笑)。