古本屋の研究日誌

古本屋として働きながら博士号を取得するまでの軌跡

『世記経』

長かったスクーリングも終わり、9日ぶりに帰京。

今回のスクーリング講義の中の話で面白いと思ったのは『世記経』という経典について。現代語訳が出てますんで、図書館でコピーして一昨日から読んでおりました。

『世記経』の内容は(今風に、また少し大袈裟に言えば)環境問題を考える上で暗示的なものがあります。仏教では世界観として、長い時間をかけて、世界は破壊され空虚になり、その後また形成・回復されていくというサイクルがあるようです。『世記経』の「世本縁品」では、破壊された後の世界が回復されていく様が描かれてます。

世界が形成される時、天にいた衆生は自ら光輝く存在でした。その後この世に生まれることになるんですが、まずはじめに大地の表面にその栄養分の膜が生じます。衆生は何とはなしにそれを手につけて舐めてみます。すると、その味は蜜のように甘くて美味いので、次々とやむことなく食べ続けると、身体の光が次第に消えていき、かつ身体が粗く鈍くなっていきます(少しだけ食べるんであれば、顔色はつやがあり、潤沢があるようですが)。段々自らの光を失うので、そこで初めて太陽や月が生まれます。そうやって大地の膜としての栄養分を食べ尽くすと今度はキノコ状の栄養分が生まれ、またそれを食べ尽くし、次は蔓状のものが出てきて、それもまた食べ尽くす。次にはうるち米。初めは毎日刈り取っていたんですが、段々欲が出てきて蓄えるようになる。そうすると、うるち米に籾殻やかすがつくようになり、やがては枯れた藁が生じるようになっていきます。

また、そうなると他人の蓄えを盗む人が出てきて、田を分割して他人と区別するという気持ちが生まれ、他人と争うようになっていく。あとは、男女の別と夫婦が生まれるなど・・・まあいろいろ書いてあるんですが、とに角、その様にして世界が段々悪くなっていって、苦しみが生まれていくという風に話は展開していきます。

要は人間の欲望によって世界を消費して、それに伴ってうるち米に籾殻がつき、また枯れた藁になるというように、世界の方も変わっていくということを説いている点で面白い経典ですね。初めて読みましたが、まだの方は是非一度。