先日、こちらのasin:4122018900を偶然入手しまして、ちょっと読んだだけでも面白かったので、大乗涅槃経についてのレポートにとりかかるはずが、ついついひき込まれてしまう(笑)。仏典の中の説話が、例えば中世日本文学に出てきても別に驚きはしませんが、中世ヨーロッパ文学・写本の中に出てくるとなると、かなり意外な感じがします。この本では、ブッダ伝が中央アジアのマニ教へ伝えられ、古ペルシア語、シリア語、そしてギリシア語へ翻訳されていき、中世ヨーロッパのラテン文学では、キリスト教の聖者の伝記に変身して広まったということが述べられてます。そのカトリック聖者の伝記というのは、『聖バルラームと聖ジョザファ伝』というもので、13世紀には、あの『黄金伝説』にも収録されたそうです。『聖バルラームと聖ジョザファ伝』は各種写本が残り、また、グーテンベルクの印刷術が発明されたすぐ後のインキュナブラとしても現存しているようで、それだけ普及していったことのようです。
簡単に御紹介しますと、
インド王・アヴェニールに王子が生まれ、ジョザファと名付けられた。預言者によれば、王子は、もっと広大な国土の王、すなわちキリスト教徒の王になるであろうと告げられます。キリスト教が嫌いなアヴェニール王は、王子を王宮に閉じ込め、現世の苦悩を知らせまいとしますが、王子は成長するにつれ、王宮を抜け出し、そこで癩病の人、盲人らに出会い、また次に外出したときは老人に出会い、人生には苦しみがあり、人は年をとってやがては死すべき運命にあることを知るわけです。そこでキリスト教・聖者バルラームが登場し、救いの道を説くことになります。
これは、仏教に親しみのある方なら、一目瞭然(笑)。ゴータマが誕生したときに、預言者が偉人の相を見て転輪聖王かブッダになるだろうと予言したところが、「キリスト教徒になるだろう」という予言にすり変わり、あとは四門出遊のお話ですよね。
その後に、聖者バルラームが説話を引用して説諭するのですが、そこで引用された「一角獣の話」というのも、実は仏典の中に同様な話があります。そして、日本にも『仏説譬喩経』とか、『衆経撰雑譬喩経』、『賓頭盧突羅闇優陀延(びんずるとらやうだえん)説法経』という漢訳(大正蔵No.217,207,1690)を通して伝わり、「黒白二鼠の喩え」と言われてるものです。
何でも、この話は、『マハーバーラタ』にあった話で、『パンチャタントラ』がペルシアに伝わって『カリーラとディムナ』となった時にそこに組み込まれ、先の『聖バルラーム』とは別系統でもヨーロッパに伝わったようです。
- 作者: イブヌ・ル・ムカッファイ,菊池淑子
- 出版社/メーカー: 平凡社
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ヨーロッパでカトリック聖者伝に変身したブッダ伝に戻りますが、それはザヴィエルの来朝以後、ポルトガル宣教師によって、再度日本にもたらされ、いわゆる切支丹文学(「尊きこんへそれす、さん・ばるらあんとさん・じょざはつの御作業」)としても伝えられることとなります。
何といいますか、説話のグローバリズムじゃないですけど(笑)、そしてこちらにもありますけど、まさに一篇の説話に世界が散りばめられている、そんな感じがしました。それにしても、世界の民話の中で、インドというのは結構大きな部分を占めているような感じもします。面白かったので、以下の本を注文してしまう破目になりました…(笑)。
- 作者: 原田実
- 出版社/メーカー: 人文書院
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- メディア: 単行本
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