古本屋の研究日誌

古本屋として働きながら博士号を取得するまでの軌跡

信仰と学問

【送料無料】スッタニパ-タこちらの本では、歴史上のゴータマ・ブッダが何を語ったか、『スッタニパータ』の文献批判を通して、明らかにしております。具体的には、SN最古層の第4章・5章と、それ以降の成立とされる1〜3章の古層部分を比較して、両者にどのような関係があるのか、そしてそれが仏教の成立過程とどう関係があるのかについて考察されてます。

最古層の中には、もしかしたら金口直説が紛れているかもしれませんが、それ以外の古層は明らかにゴータマの死後、仏弟子によってまとめられた部分のようです。仏弟子の理解により、増広または発展させられた部分を含んだ古層が、そのままゴータマが語った言説と一致すると考える「信仰」の立場もあろうかと思いますが、仏教を「研究」する上ではどうか?という微妙な問題があります。

例えば、「縁起」。仏教の根本思想と言われる「縁起」が最古層の中でどのように説かれているのか?それはこの本をお読みいただければいいのですが(笑)、仏教独自の思想というよりも、むしろジャイナ教など他の宗教と共通している教説と考えることもできそうです。

別に、縁起が仏教ではないとか言おうとしているのではなく、それはこの本の中でも述べられてますが、ゴータマの死後、仏教が発展していく中で縁起という思想が形を整え、今に伝わるような仏教の根本思想になっていく過程に、むしろ仏教の本質があるのかもしれません。

ただ、ゴータマ・ブッダが歴史上存在したとして、現存している限られた文献を批判的に解釈した上で、彼が、例えば「十二支縁起」を説いていたと、断言はできないということなのでしょう。あくまでも、その「萌芽」はあったと言うにとどめるべきかもしれません…。

「信仰」という前提から論を進めるのではなく、文献批判を前提として、仏教を「科学」する面白さが並川先生の本にはあると思います。