古本屋の研究日誌

古本屋として働きながら博士号を取得するまでの軌跡

一心

一心というと、「一心不乱」、「一心精進」とか、「一心に〜する」など何気なく用いられますが、もとは仏教用語で、その起源をたどると、『華厳経』「十地品」に出てくる三界唯心、十二有支皆依一心という言葉に行き着くのかと思います。その後の唯識思想や地論宗、華厳教学において重要な思想的根拠になるものですが、ただ、インドの唯識思想では「一心(eka-citta)」という言葉はほとんど重視されていないようです。むしろ、中国や日本で好んで「一心」は用いられます。たとえば、「十地品」の中の「唯心」が『十地経論』では「一心」と翻訳されてますし、日本唯識の良編は、『観心覚夢鈔』の中で、「三界唯心」を「三界唯一心」と表現し、『法相二巻抄』でも「一心」というのが何箇所か出てくるようです。


「一心」が普及するのに影響力を持ったのは、多分『大乗起信論』で「一心」がアーラヤ識と如来蔵の不一不異である言われ、禅宗でも上乗一心の法などと言われたのが大きいのかなと思います。唯識では、心をアーラヤ識(妄心)に限定し、心の多様性の中から現実の心識説の解明に重点を置くので、アーラヤ識と如来蔵が不一不異であるかのような「一心」という表現は好まれないということなんでしょうか…?


さて、いよいよ今年も残りわずかとなってきました。毎年この時期になりますと、今年一年よくやったな…的な意味で、ついつい中身の少ない財布の紐が緩みがちに…(笑)。前から欲しかったこちらの本を購入してしまう。一応、昭和49年・元版の改訂版となっているようで、元版の価格が下がってきたら買おうかなと思っていたのですが、こっちにしておきました。2分冊の方が持ち運びに便利ですし。


如来蔵思想の形成〈1〉 (高崎直道著作集)

如来蔵思想の形成〈1〉 (高崎直道著作集)

如来蔵思想の形成〈2〉 (高崎直道著作集)

如来蔵思想の形成〈2〉 (高崎直道著作集)