古本屋の研究日誌

古本屋として働きながら博士号を取得するまでの軌跡

百科事典をつくれない国

先日、ある書店でこちらの松山俊太郎著『インドを語る』を見かけ、購入させていただく。1,500円也。絶版ということで、前から探してて読んでみたかった本です。早速、読んでみましたが、期待を裏切らず、面白いです!

インドとは何か?というお題でなされた講演が元にあるそうですが、のっけから、インドなんか分からない!インドは幻だ!と言われます。過去数千年の自国の文化を忠実に守ってる国というのはインドと中国だけだそうですが、たしかに、バラモン教からヒンドゥー教、そして仏教、ジャイナ教…どれも一人では全体を通暁できないものばかりですし、それらを網羅した通インド的な百科全書というのも土台無理な話なのかな…と思ってしまいますね(笑)。

例えば、本書でも触れられてる、こちらのサンスクリットの百科事典。

A.M.Ghatage(ed.): An Encyclopaedic Dictionary of Sanskrit on Historical Principles. Poona Deccan College 1976-

こちらは、収録語それぞれの歴史的用例が載っている、梵語OEDのような性格のものです。しかし、編集がはじまってからすでに半世紀以上経過していますが、完成への道のりはまだまだ…。例えば、こちらをみますと、現在は少なくとも第6巻までは完成してるみたいですが、それでも“aneka-kaitava”という語までのようで、まだa-の半ばまでしか進んでないことになる。それもこれも、新しい思想が加わっても、古い思想がそのまま残り続け、多様な文化遺産を残しているインドならではということなんでしょうが、そういう意味で、通インド的な百科事典を作るには、膨大な資金と時間、そして研究者の人員が必要なようです…。それこそ、“阿僧祇”というレベルになってしまいそうで(笑)、確かに、インドなんか分からない、幻だと言いたくもなります…。