古本屋の研究日誌

古本屋として働きながら博士号を取得するまでの軌跡

史上最高の「序文」と「出版後記」

こちらは、店番をしながら思わず手に取り、読んでしまった本。

漢和辞典に訊け! (ちくま新書)

漢和辞典に訊け! (ちくま新書)

ちょっと前に出た本ですので、読まれた方も多いと思います。
著者は漢和辞典の編集者を長年務められた方で、初心者が漢和辞典を使う際の引き方から始まって、漢和辞典によって、漢字の音読み、成り立ちを調べるなど、その用途を実例を挙げて説明してます。

漢和辞典は「わかりやすい」書物ではない。読み解くには、少々の予備知識が必要だ。たとえるならバイオリンのようなもので、初めて手にした瞬間から、すぐさまたのしめるようなものではない。楽器らしい音を鳴らすことができるようになるまでには、それなりの訓練が必要なのだ。


古典語というのは、辞書を引いて使いこなせるようになるまで、時間がかかるものです。漢和辞典も然り。個人的には、仏教をやっていると、呉音読みの縛りがあるので、漢字の読み方を調べるなど利用することはありますが、それほどの頻度で使ってるわけではありません。しかし、一を調べて十を知る、そんな漢和辞典の使い方を教えられた気がして、もっと利用したい気持ちになりました。


一気に読める感じで、それでいて随所にいろいろなことを教えてくれる良書です。
思わずこちらの本を思い出してしまいました。

『大漢和辞典』を読む

『大漢和辞典』を読む


本書の中で、『大漢和辞典』の諸橋先生の序文と、出版社・大修館書店社長による「出版後記」は何度読み返しても、熱いものがこみ上げてくると言われてますが、それもむべなるかな。こんな「序文」と「出版後記」って他にあるだろうか?と呼べるレベル。人の生き方とは何か?それを示しているかのようなレベルのアツいものです!


kanjibunka.com

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この辞典には、約三十五ヶ年間に亘る私の魂が打ち込んである。私存命中に再び版を新たにすることは出来まい。将来補筆出版の必要が生じた際は、私の子孫が責任をもって、大修館書店の名前のもとに必らず遂行するよう申し置いて行く。この辞典が世の中に一揃いででも残って活用される限り、諸橋先生と共に私の生命が永遠に続くものと確信して、ここに出版後記とする。


大漢和辞典』の初版全13冊(縮写版)は、1万円も出せば全巻買えてしまう時代になってしまいましたが、「一国文化の水準とその全貌を示す出版物」としてそれだけ普及したということなんでしょう。冒頭の書を読んで、何だか、大して使えもしないのに、なぜか諸橋大漢和を手元に置きたくなってしまいました…(笑)。