ひとつのインド、いくつものインド

古代インドの思想: 自然・文明・宗教 (ちくま新書)2015年も、よろしくお願いいたします。


こちらは正月休みに読んだ本です。この本のユニークな視点は、古代インドの思想を自然環境、気候変動という点から見てみようというところにあります。

インドでは多くの場所で一年中高温で、大気が乾燥して霞も靄も出来にくい、そして地形の高低さもそれほどあるわけでなく、光の量も多いので、雨季を除けば、驚くほど遠くまで見通せる。そうしたインドの大地では、個人が「無限」とか「永遠」というものに対峙できる環境が用意されている。また、暑さや乾燥が激しいなど、過酷ではあるものの、多大なる恵みをもたらす自然環境下にあるインドでは、勤勉さを尊び蓄財を奨励するような精神風土は生まれなかった。そういう土壌に生まれる宗教は、総じて「完全なる放棄」や「無所有」を説くようになる。つまり、「行為」というものに積極的な意味を見出さず、作為よりも無為に価値を見出すことになる。

そして、気候学者・鈴木秀夫らがいうところの「森林の思考」「森の宗教」*1というのも出てきます。アーリア人は、漸次南東方面へ進んでいったと思われますが、その中で「森の民」と遭遇し、かつ混血・同一化していったと思われる面があるからです。

ユダヤキリスト教などセム系宗教は、歴史に始めと終りが設定され、時間も一方向的に流れ、現象の一回性が顕著である。こうした砂漠的思考に対し、熱帯の森では生物の生長が早く、朽ち果てたものから次の生命が自然に生まれる。万物に始めも終りもなく、生滅を繰り返しつつ全生命が継起していく。自然全体が無限の時間の中で生死を繰り返し、人間も流転する。つまり輪廻の考えが生まれてくる。

こうした自然との関わりの中から、ヴェーダの神々、仏教、ジャイナ教などがいかに生まれたかということをコンパクトにまとめられてます。自然環境との関係を軸に、インドの宗教を捉えているところは興味深く読ませていただきました。ともかく、インドといってもその地域によってかなり風土的な多様性があるという点は考慮されるべきなのではないかと思われます。本書の中にもあった言葉で、「ひとつのインド」「いくつものインド」というのがあります。インドは、地理的に周囲を山脈や海に囲まれ、独立した空間として緩やかに一つに括られている反面で、様々な風土的多様性を内部に宿し、言語や文化も多様です。


この点はうすうす感じてはいたところですが、気候風土も含めた地域的なまとまりから、インドの仏教を捉える視点も面白いのでは、と思いました。

*1:森林の思考・砂漠の思考 (NHKブックス 312)