古本屋の研究日誌

古本屋として働きながら博士号を取得するまでの軌跡

中央アジアの仏教写本

文明・文化の交差点 (新アジア仏教史05中央アジア)先日、出たばかりのこちらの本を買いました。旧版である『アジア仏教史』が刊行されてから35年、その間に最も進展があった分野の一つとして、この巻で取り上げられている中央アジア仏教写本があるのではないでしょうか。1996年に大英博物館で発表された、紀元1世紀にまで遡るガンダーラ語によるカローシュティー文字写本の発見以後、スコイエン・コレクションを始めとする様々な写本が発見され、それらがこれまでの仏教史観を塗り替えるかもしれない!?新資料として注目されているのです。


初期漢訳仏典は、ガンダーラ語からの音写語を含むため、ガンダーラ語から翻訳されたことが言われてましたが、実際にガンダーラ語による八千頌般若経(しかも、紀元1世紀に遡る!)とか出てくると、すごいと思いますし、何よりも、発見された写本断簡が、仏典の成立史に関して、興味深い示唆を与えているところがあります。


インドでは、元々、口頭伝承でしたから、書かれた仏典というのはなかったといいます。実際に、現在まで伝えられている三蔵が整ってくるのはかなり時代が下ってから(5世紀とか?)、インド本国よりもその周辺地域です。インドでは仏教文献はまったくといっていいほど出てきませんし、また、紀元2、3世紀に遡る、組織的に書写された三蔵文献の写本は存在していないというのがその根拠だといわれてます。先程の1世紀に遡るのは、整備された経典というより、僧侶の備忘録や色々な経典の抜き書き・アンソロジー的なもののようです。


でも、そういう例外的なものがきっかけで、仏典・書写の伝統となり、それが後の三蔵としてまとめあげられるまでになっていったのではないか?そういう風に推察できるといいます。そして、どうも大乗経典がそのきっかけとなったのではないか?というのも興味深いところです。2,3世紀のガンダーラ語写本に含まれる大乗経典には、専門の書写生が書いたような、整った筆跡のものが多数見つかってるそうです。実際、大乗の経典では盛んに経典の書写が勧められてますから、その辺は納得のいくところです。


ともかく、断簡に過ぎない写本の一部だけからでも、いろいろと分かることがあるわけで、それだけでも大変興味深いことです。以上、書かせていただいた内容は、本書のなかの「中央アジアの仏教写本」として佛大の松田先生によって概説されてます。お薦めです。


f:id:furuhon-ya:20101027121012j:image:left:w200ちなみに、こちらは先日古書市場で安く買った旧版。まだ、使える部分もあるとは思いますが、いかんせん、35年前ですからねぇ…(苦笑)。