闇屋になりそこねた哲学者

闇屋になりそこねた哲学者

闇屋になりそこねた哲学者


哲学者の方のエッセイは、よく読みますね。木田元氏の本はいろいろありますが、自伝ともいえるこの本は、木田さんが、山形の農業学校を卒業された後に東北大学に入学するあたりは、ある意味、社会人学生でもある私とも若干重なるところもありますし、暇なときに、ふっと読むのもいいです。

中でも、ギリシア語・ラテン語・ドイツ語といった外国語の習得方法の話や、ドストエフスキーキルケゴールからハイデッガーの哲学にのめりこむ過程、などはなかなか面白く読めます。

また、カントの『純粋理性批判』のマイナー版の翻刻が戦時中、神田の崇文荘さんから出ていたことや、『現象学の根本問題』の海賊版の話など、古本屋の私としては、気になる話もあります。

古本屋として、私は1,2回その『現象学の根本問題』の海賊版の本を扱った覚えがあります。『存在と時間』の書き直しともいえるその講義録は全集として1975年に出版されるまで、一般の人は読めなかったようです。でも、1927年に実際にマールブルク大学でそのハイデッガーの講義を聞いた日本人がいらしたそうで、その人が、その講義録をタイプで打たせ、日本に持ち帰り、ガリ版刷で80部ほど印刷して頒布したらしいのです。それを矢島羊吉先生から借り受けた木田氏は、そのまた海賊版を80部作って、販売したそうです。

私の記憶によりますと、その海賊版は確かに上下2冊の大判で、かなりのボリュームの本だったのを記憶してます。洋書会で見つけて、結構衝撃的で、踏ん張って落札したのを覚えてます。まあ、全集として新刊が出ているわけですから、読むだけなら、新刊本を買えばいいわけで、本の内容としては価値がありませんが、そういう事情を知ってる方には、大変貴重なものですよね。何せ、80+80の160部しか存在しないわけですから。そんなに安い値段はつけなかったと思いますが、やはり、そういうのが売れるとなかなか古本屋としてはうれしいものです。でも、それ以来、その海賊版は見てませんねぇ。