古本屋の研究日誌

古本屋として働きながら博士号を取得するまでの軌跡

在野研究者の悲劇

来年度から、院に復帰する予定ですが、今現在の身分はどこにも所属してない在野研究者です。本を買うのも、学会に行くのも全部自腹です(笑)。

 

私が読んでいるテキストの写本はドイツのハンブルク大学に24種類保存されてることが分かってます。ネット上で公開されているわけではなく、一つ一つの写本が、経典のどこからどこまであるのかとかは分からず、ただその形式と枚数、書体や年代などの形態としての情報が分かるのみです。多いもので、1つの写本で300葉くらいあるものから、少ないもので50葉くらいまで、いろいろあります。

 

私が読んでいる部分のみをスキャンしてもらうというのはできないだろうと思って、試しに、24種類すべてをスキャンしてもらってDVDとかで送ってもらうにはどれくらいの費用がかかるか問い合わせてみました。

 

すると、なんと、その費用の見積金額は970ユーロ!!

 

((((;゚Д゚))))

 

自腹で出す余裕もないじゃないか…(笑)

 

院に復帰しても、研究費はそんなにないし…(笑)

 

どうするんだ…(笑)

 

写本の系統

5月の連休以来ですね(^^;

 

その間に、こちらの本を購入して読みました。薄い本ですが、結構高かった…(^^;

Textual Criticism and Editorial Technique (Teubner Studienbuecher Philologie)

Textual Criticism and Editorial Technique (Teubner Studienbuecher Philologie)

 

校訂作業の基本文献。前半に基本的なレクチャーがあって、後半は実際のテキストが挙げられています。例文がすべてギリシア・ラテンなので、よく分からない面も多かったんですが、基本的な考え方や知識はとりあえず分かったような気がします。

 

私が読んでいるテキストは、唯一の校訂本が1923年に出た後に、新出の写本が多数あることがわかったのですが、それらの新出の写本をも参照した校訂テキストというのは、部分的にしか出されてません。その研究で参照されている新出の写本は7種ですが、それ以外にもまだまだあるようです。

 

ともかく、その研究によれば、写本はすべてネパール系で、年代的にも近代になってからのものがほとんど。そのため写本の系統(recension)の相違というのはほとんど考えられないのですが、その中でも4つのグループに分かれるのではないかとされています。

 

それを踏まえて、私が読んでいる部分からもその4つのグループ分けというのは妥当なのか?という問題意識をもって、現在テキストを読んでいるんですが、注目点としては、誤記になりましょうか。同じ誤記をしているものは、とりあえず同じグループと考えます。しかし、その一方で、そうした誤記を誤記のまま写さずに、訂正しているということももちろん考えられるわけです。あるいは、訂正する際に、他の写本を参照しているということも当然考えられるわけで、そういうのを考慮すると、この作業、そんなに単純なものではないという気がしてきたところです^_^

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satva or sattva ?

GWは、仕事に行く以外は基本的に部屋に籠って勉強です(^^)

 

連休中、twitterで知ったこちらの船山先生の論文を読みました。

 

それと関連するこちらの論文も。

zenodo.org

 

一般的にネパール系の写本ではsattvaやtattvaなどをsatva, tatvaと表記しているようです。あと、rの後の子音が重複されるとか(dharmaやvartateをdharmma、varttateなどのように)。

 

私が読んでいる写本でもsattvaはほとんどsatvaとなっていて、しかし、校訂本はそれをsattvaと注記もなく訂正してまして、私も前から疑問に思ってたところでした。その点で、非常に興味深く読むことができたのでよかったです。

 

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あと、船山先生の論文にある、satvaがヴェーダ語のsatvan(勇者、英雄、戦士etc.)と関連があるのではないかというのもすごく興味深いところ。bodhisatvaを菩提薩埵と訳す場合、薩埵の語義に丈夫とか立派な人という意味が込められていて、それはヴェーダ語の意味を酌んでいるのではないか⁉というのも興味深く思いました。bodhisatvaのインド的な意味はその辺なんでしょうか。つまりsattvaよりもsatva?

 

こんな感じで、satvaかsattvaか、一文字入るか入らないかを巡って、立ち止まって一日考えていたりするんで、なかなか進まないんですよね…(笑)。

 

外出自粛!

緊急事態宣言が出され、異常な事態になっております。いろいろと心配なことが増えますが、こういうときは、今までサボっていた勉強をするにかぎるということで、自室にこもって作業する時間が増えました。

 

現在、各写本の異同をすべて見た上でのクリティカル・エディションを作ろうという野望をもっておりますが、写本が沢山ありすぎて、全然進んでおりません…(苦笑)。

 

とりあえず、ネット上で見れる東大所蔵の7種の写本と唯一の校訂本を対照して読んでいってます。特に、読み方が変わってくるような異読は多くなく、誤記やそれぞれの書き手のクセが目立つような感じ。種類が多いので、時間もかかるし、結構大変ですね。

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しかし、この7種の他にも、書籍化されてるのですと、龍大所蔵の善本叢書シリーズの1冊とインドのśatapitaka series中の1冊があり、その他ドイツ・ハンブルク大学所蔵の写本が11種あるんですよね。それぞれフォリオサイズで100葉以上あるのを果たして複写して送ってもらえるのだろうか?それともオンライン上での公開を待った方がいいのか、などなど素朴な疑問を持ってるのですが、今回のコロナ騒ぎがひと段落したら問い合わせてみたいと思ってます。

 

それはそうと、文献学の入門書であるこちらを読み返してます。

テクストとは何か:編集文献学入門

テクストとは何か:編集文献学入門

  • 発売日: 2015/10/29
  • メディア: 単行本
 

furuhon-ya.hatenablog.jp

 

 あとは、以下も再掲になりますが、時間とお金に余裕ができたら読んでみたい。

Scholarly Editing: A Guide to Research

Scholarly Editing: A Guide to Research

  • 発売日: 1996/01/01
  • メディア: ペーパーバック
 
Textual Criticism and Editorial Technique (Teubner Studienbuecher Philologie)

Textual Criticism and Editorial Technique (Teubner Studienbuecher Philologie)

 

 

声の文化と文字の文化

 こちらに所収されている「大乗仏教の成立」では、下田先生が大乗経典の起源について書かれてます。

世界哲学史2 (ちくま新書)

世界哲学史2 (ちくま新書)

  • 発売日: 2020/02/06
  • メディア: 新書
 

 大乗仏教の起源については、いまだ定説がなく、学会でも議論が盛り上がってます。これまでの説では、大乗経典に相応した教団があったのだろうという(暗黙の)前提があったのですが、どうもそうではないんじゃないかという見方が近年の主流です。

 

大乗経典の方が先に成立していて(古いもので紀元前後)、それに相応した教団というのは、後代(5、6世紀)になってようやく成立したといわれてます。それについては、書写経典というのがキーポイントで、知の伝承媒体が声から文字へと転換することで、仏教の知識のありようが劇的に変化し、そこに大乗仏教の起源も関係してくるのではないかということなんです。

 

その辺は、こちらに詳しいということなので、読んでみたいです。

声の文化と文字の文化

声の文化と文字の文化

 

 

 下田先生の注目の近刊はこちら。

仏教とエクリチュール: 大乗経典の起源と形成

仏教とエクリチュール: 大乗経典の起源と形成

  • 作者:下田 正弘
  • 発売日: 2020/04/22
  • メディア: 単行本
 

 

 私が読んでるのは中期大乗経典なので、大乗仏教の起源問題とは直接的には関係しませんが、その担い手、経典を作成していった人がどういう人々だったのかという意味では何らかの示唆を得られるのでは…と思ってます。

再出発~再入学へ

私が所属していた大学院の規定では、単位取得満期退学後3年以内に博論を提出できない場合は、(課程の4年目に)再入学できることになってます*1。私は来年度がその満退後の3年目になり、博論を提出するか、改めて再来年度に再入学を目指すか、という選択をすることになります*2

 

2020年度に博論提出は無理ですので(笑)、2021年度から再入学するのが最も現実的な選択となりそう。そこから3年、ちょうど私の先生があと4年で退官ということなので、何とかその期間内に博論を提出しなければ…という状況になりました。とりあえず、その間に論文を1、2本出して、それで博論執筆するつもりです。途中、休学を3年取りましたから、可能な限りの最長期間、在籍することになりそうです(^^;

 

我ながらよくやるよ…と思いますが(笑)。

 

そういう気持ちになったのは、前にも触れたこちらの本を読んだのが大きいと思ってます。

在野研究ビギナーズ――勝手にはじめる研究生活

在野研究ビギナーズ――勝手にはじめる研究生活

  • 作者:荒木 優太
  • 発売日: 2019/09/06
  • メディア: 単行本
 

 

本書を読んで、あきらめるのはまだ早いな、という結論に至りました。各執筆者がそれぞれの研究内容を熱く語り、知的欲求を満たすために、生活上の困難もいとわずに研究生活を楽しまれているのがよく分かり、大変刺激を受けました。本書によって、すっかり「在野研究者」という地位が確立されましたね。私が仕事をしながら、通信の大学の門を叩いた15年前と比べると隔世の感があります。

 

私の場合、平日一日に家で勉強できる時間としては、トータルでせいぜい1時間~1時間半くらいがいいところ。それに通勤電車内の時間が往復で1時間ちょっとあるので、その時間を当てようと思えば当てられる。ま、寝てることも多いんですが(笑)。

 

あとは細切れ時間を合計すると一日当たり、1時間くらいにはなるんじゃないかというのもあるので、そういうのもいれて、何とか一日3時間は捻出してみようと思うようになりました。細切れ時間で、論文は書けませんが(笑)、語学を勉強するのにはいいかも。何とかやりくりして、救済措置として与えられた4年間を活かしていきたいと思ってます。

*1:博士課程には6年間在籍できます

*2:論文博士というのもありますが、文系の場合は、すでに著書を出していて学会でも著名な方が取る雰囲気がありますので、私の場合は再入学しかなさそうです(^^;